25.パイプレンチ
 
 
〔用途〕
◆パイプレンチはその名前の通り、パイプを回すためのレンチです。
 主に水道管、ガス管などに継手をねじ込んだり、外したりする、配管工事に使われる工具です。
 
〔特徴〕
◆パイプは丸いものですから、スパナやモンキレンチでは、引っ掛かるところがなく、回すことができません。色々な方法で締め付けて回すことも考えられますが、パイプを変形させずに回すには、特別な工夫が必要となります。
 そこで、レンチ本体に力を加えることによって、上あこと植歯の歯がパイプに食い込み、引っ掛かることになって丸いパイプを回すことができるのです。
 
〔種類〕
●寸法
パイプレンチの呼び寸法は、くわえられる最大のパイプをくわえた時の全長で呼びます。150mmから1200mmまでの9種類が市販されていますが、JISでは200mmから1200mmまでの8種類が規格化されています。呼び寸法と、くわえることのできるパイプの外径との関係を表1に示します。
表1
呼び寸法(mm) 200 250 300 350 450 600 900 1200
くわえられる
管の外径
mm 6〜20 6〜26 10〜32 13〜38 26〜52 38〜65 50〜95 65〜140
IN 1/4〜3/4 1/4〜1 3/8〜11/4 1/2〜11/2 1〜2 11/2〜21/2 2〜31/2 21/2〜51/2
強さ JIS B4606に試験荷重値を参照のこと
 
型式
パイプレンチの型式には、トライモ型、リッヂ型、ステルソン型の3種類があります。
 国内ではトライモ型が主流で、一部リッヂ型が市販されていますが、スチルソン型はほとんど見かけません。
 いずれの型のパイプレンチも、強力級と普通級に区分されていて、強力級にはH、普通級にはNの記号が本体の見やすいところに明示されています。
図
 JISで荷重試験方法が規定されていて、区分による規格通りの荷重試験がメーカーで行われており、その試験方法は、図4(67頁参照)のように丸棒をくわえ、本体の他の端に荷重を加えてモーメントを与えた時にパイプレンチの各部に異常があってはならないとされています。
 
〔使用材料〕
◆上あごおよび植歯の材料は、原則として、強力級はクロムモリブデン鋼、普通級は機械構造用炭素鋼が使われています。これも、メーカーによって多少の違いはありますが、本体は、強力級では機械構造用炭素鋼を使い、普通級はダクタイル鋳鉄を使っているのが一般的です。
 なお、リッヂ型については、本体にダクタイル鋳鉄や、黒心可鍛鋳鉄が使われており、強力級のものとなっております。
 最近では、本体をアルミ鍛造品としたものがでてきています。
 
〔その他のパイプレンチ〕
チエントング
鎖パイプレンチともいわれ、主に太いパイプの締め付け、またはパイプ押さえに用いるレンチです。
 チエンをパイプに少し緩めに巻き付け、チエンの両端に突き出たピンを、本体の溝部に引っ掛けてチエンがパイプに巷き付く方向に本体を回せば、本体の歯がパイプに引っ掛かり、パイプを保持したり、回したりすることができます。
図
コーナーレンチ
従来のパイプレンチとモンキレンチを組合わせた、新しい形をしたパイプレンチで、壁・床に埋込配管をしたり、地中に埋設配管をする時などに、コンクリートを大きく割ったり、大きな溝を掘らなくても作業ができるという、狭い場所で能率良く使えるレンチです。
図
歯形状の異なるレンチ
最近はパイプなどに合成樹脂を被覆した種々の樹脂被覆パイプが多く使用されており、これらの樹脂被覆を剥離させない、大きな傷をつげないために、上あごと植歯のピッチを細かくしたり、歯の幅を広くしたパイプレンチも使われています。
図
〔使い方〕
◆パイプレンチの本体と上あごの組合わせは、すき間が大きくガタつくようになっています。
 これは作り方がまずくて、ガタガタになったということではありません。このガタは、丸いパイプにパイプレンチを引っ掛けて回すためにはどうしても必要な意味のあるものなのです。
 上あご、植歯は口の内側になる部分に、横縞の歯がついており、図1に示すように、使うパイプの太さに丸ナットを指で回しパイプに合わせます。その時、フレームまたは上あごを少し口が開く方向に押しながらパイプを挟むようにすると、本体に埋め込んであるバネの作用により、上あごと植歯の歯がパイプによく引っ掛かるようになります。
図
 
パイプレンチをパイプなどより外す場合は、少し上あごを口が開く方向に押せば(図2)、簡単に外れます。
図
 
 このような理屈からパイプレンチを図3の矢印の方向に力を加えますと、上あご植歯の歯がパイプに引っ掛かり、反対に回すと外れますので、ラチェットと同じ操作ができるのです。
図
 
〔使い方の注意〕
◆使用についての注意として、呼び寸法とくわえられるパイプの外径との関係が示してあります。(表1・64頁参照)この表の範囲で、図4のように正しくパイプを挟んで下さい。
図
 
表1(64頁参照)の範囲を超えた大きなパイプを挟んだり(図5)、また図6のように本体にパイプを差し込み、本体ハンドル部を長くして、過大な荷重を掛けたりしないで下さい。
図
図
JIS B4606に、試験荷重が規定されていますので、参考として下さい。また、図7に示すようにパイプレンチを横に使うのも禁物です。
図
◆上あご、植歯の歯に、よく液状シール剤等の異物が付着し、そのままの状態で固まりますと、パイプに引っ掛からなくなる時がありますので、そのような時はワイヤブラシなどで掃除をして下さい。
 
警告
1. 表1(64頁参照)の範囲を超えてパイプレンチを使用されるとパイプレンチが破損するなどして、思わぬ事故を引き起こす恐れがありますので、絶対にそのような使用はしないで下さい。
2. レンチを斜めに取り付けたり、負荷を確認せずに一気に力を加えると、レンチが空転したり折れたりして、大きな災害に結びつく恐れがありますので、ゆっくりと負荷を確認しながら、締め込み作業は行って下さい。
3. 足場の不安定な場所での作業は、滑ったり、落下したりする恐れがあり、大変危険ですので、正しい姿勢で作業ができる、安定した足場を確保して下さい。
4. 高所作業を行う場合には、落下防止のために安全帯・工具の落下防止具・安全ネットなどの安全防護対策を必ず行って下さい。
5. パイプレンチは常に点検をし、摩耗・損傷などのある場合は、使用しないで下さい。